ちいさな ちいさな…

満開の桜もいつの間にか散り始め、少しずつ緑の葉が目立ち始めてきた。
今年の桜も、そろそろ見納めだ。
晴明と博雅は、二人で桜並木を歩いていた。
満開の時には視界が全て桃色に染まったものだ。
あれほどまでに咲き誇っていた桜。
今は散り急ぐかのようにはらはらと花弁を落としている。
花と葉の隙間から陽の光が射しこんでいて目に眩しい。
桜は、あっと言う間に咲いて、あっという間に散ると言うが、 それはどの花も同じだと博雅は思う。
桜の圧倒的な存在感に、自分たちはその命の重さを量り間違えているのだろう。
桜も、野に咲く小さな花も、同じ命の重みで生きているのだ。
だから、桜だけが取り分け早く散っているわけではない。
なのに、なぜ自分たちはそう桜に対して思ってしまうのか…。
それはきっと、桜の存在があまりにも大きすぎるからだ。
その存在に似合うだけの命を期待している。
だから、一般的な命の長さで散ってしまう桜に、もの足りなさを感じるのであろう。
それはひとえに、その存在の大きさ故…。
そして、それは人間にも言える事。
人々に愛され慕われた人間は、たとえ天寿を真っ当しようと、 死を惜しまれ、まだ死ぬべきではないと嘆かれる。
しかし、名も知らぬ老人が同じ歳で死んだとしても、誰も関心を示さないだろう。
同じ命の重さ、同じ命の時間。
なのに、こんなにも違う。
それは、やはり存在の大きさの差なのだろう…。
もし、晴明が自分を残して逝ってしまったら、
自分は正気を保っていられるだろうか。
いや、きっと情けない姿を晒して泣きつくのだろう。

逝くな

逝かないでくれ

お前にはまだ早いだろう?

…と。

命あるものには必ず最期の瞬間がある。
この散り行く桜の花のように。
ならば、それまでの時間を有り余るほどの想いで埋めていこう。
博雅はひらりと目の前に落ちてきた花弁を両手の中にふんわりと閉じ込めた。

「…晴明、見ろ。捕まえたぞ」

両手を広げて晴明の前に差し出す。
晴明は、不思議そうな顔をして博雅の顔と手の中の花弁を見た。

「知らぬのか、晴明?
 桜の花弁を地に落ちる前に捕まえることが出来ると、幸せになれるのだぞ」

言って、博雅は晴明の手にその花弁を握らせた。

「おい…」

晴明は戸惑いながら博雅を見上げた。

「持っているだけでも効果はあるらしい」

「なら、お前が持っていればいいだろう」

「おれは晴明に幸せになってほしいのだよ」

「…おれは、もう十分だ」

言って、博雅の手に花弁を押し戻す。

「おれはいい。お前が…」

「だめだ。お前が捕まえたのだから、おまえが持っていろ」

「いいや。やるっ」

言うと、博雅は花弁を晴明の襟元に無理矢理嵌め込んだ。

「な…」

博雅の予想外の行動に驚く晴明。

「おれはな…」

博雅は晴明の顔をじっと見つめ…

「どうせ貰うなら、こっちの方がいい」

そう言って、花弁より艶やかな晴明の唇にくちづけた。
しっとりとした弾力のある唇は、いつ触れても気持ちがいい。
軽く啄ばむようにして顔を離す。

「ばか…」

晴明は照れて俯いた。

「また見に来ような、晴明」

「…ああ」

共に居られる最期まで。

どうか、離れずに・・・。

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桜は良い。桜は良いものです。
花見に行く暇もない日々の忙しなさに虚しくなる春ですが、そこは妄想でカバー。
あと、つくづくボスの晴明はかわいいな、おい。
どうしてこうもしおらしいのさ。
以下、作者のコメント。

日記にUPしていたものを拾ってきました。
私的には結構好きな話です。
確かこれを書いたのは、桜の花が少し散り始めた頃だったと思います。
友人が、はらはらと落ちる花弁を地に落ちる前にキャッチして、 「これで幸せになれるかな〜」なんて言っていたんです。
この時まで私は桜の花弁を地に着く前にキャッチできると幸せになれるなんていう、 迷信は知らなかったんで、これは使える!と思ったんですよ〜(笑)
そして早速使う私(笑)