if you don't know,
now you know.
good luck, my fellow.
		

Kirschblüte
-Komm, süsser Tod-

わかっていた

わかっていたんだ
おまえを苦しめていたという事も

わかっていたんだ
愚かな事に怯えているだけだという事も


"触れれば傷つく"?

"離れれば苦しむ"?


そんな分かり切った事


人はだれもそんな事を考えもせず

鈍感に 勇敢に
人と出会い交わる

愚かで儚いのに
何より強い



怯えているのは
賢しさを履き違えた者ばかり



永遠や真理を掴もうとして
何も掴めぬと嘆く者ばかり



わかっていた

わかっていたんだ

それでも


別 れ が 来 る の が 怖 か っ た

伸ばした手は何も掴む事が出来ず。



ただ、 空を切った。



ゆっくりと。



花弁が ひとひら

地面へと



空を切って 落ちる様。



それよりも



なお 



ゆっくりと、



時間が 流れて。



腕に



つい先刻まで抱きしめていた感触



それすら 残して。



桜が



桜 が 散 っ て し ま う 。

痛みばかりだった

恐れることを止めてから

おまえと言葉を交わしてから


こころを伝えられぬ事に苦しみ

こころを伝えられた事に苦しみ

こころを開けぬ事に苦しみ

こころを開かれた事に苦しみ

こころを奪われた事に苦しみ

こころを奪った事に苦しんだ



暖かく
穏やかな時の中ですら
痛 か っ た


いつか訪れる別れを知っているから


それでも
ただ
幸 せ だ っ た


苦痛あってこその生命だから


別れがあるからこそ
一時 一時を生きた


痛みの中で

本当に 生きている と感じた



暖かく 穏やかな
痛みの中で



お れ は
生 き て い た



だからこそ

いま
己がここにいる理由がわかる



すべきことがあるんだ



そのために
おまえに 出会った

白い頬はいつもと何も変わらなくて。



うっすら紅をひいたような唇もいつもと同じで。



なにが……。



なにがいけないのだろう。



どうして、



おまえは目を開いてくれない?



おれが呼んでいるのに。



何度も。



何度も。



ああ、



そうか。



紅い雫で白い貌が汚れてしまっている。



拭いてやらねば。



そうすれば、またいつも通りだ。



そうすれば、おまえは目を開く。



また笑うてくれる。



そうだろう

………なあ………



…………なあ…………



……起きてくれ………



………たのむ………



…………ああ…………



白 い 桜 が

紅 く 染 ま る

この躯を抱き締めるその腕から離れて

いつもおまえが前を歩む道を先にゆく

ただ それだけのこと

ただそれだけで

ふたりの未来が
入 れ 代 わ る


ただそれだけで
的を違えるような

虚しいくらいに
単純で 拙い
呪詛

でも それ以外に
打ち破る術のない
呪詛


こんなもので
おまえは死んではならない

こんなところで
おまえは死んではならない

おまえを守るために
おれはここにいるのだから



そ の た め に
世 界 は
お れ を お ま え に 会 わ せ た

「さきに ゆくぞ」

そう言われた瞬間に

何故か酷く苦しくなった。



だから

わけもわからず手を伸ばした。



抱きとめようと した。



抱きしめた身体はいつも

暖かくて  柔らかくて



ただ

その感触を感じられれば安心できた。






なのに………



なのに いま

抱きしめている身体は



ただ ただ 冷たくて。



自分が涙を流している事にすら気づけぬほど



こころは乱れてしまっていて。



もし………時が戻るなら………。



ほんの……ほんの僅かでいい…………。



……………時が戻るなら……………。

「 お ま え が お る か ら 人 の 世 も 悪 く な い と 思 え る 」

それは、おれとて同じだというのに………。

おれは忘れぬだろう

おまえと
共にいたことを

おまえも覚えていてくれるだろう

おれと
共にいたことを


なにもかも 忘れずに覚えているのだろう


ただ


ただ
それだけが
哀しい


散るものにこころを捕らわれるな

まえだけを見よ
と言うたとて

おまえには出来ぬのだろう…


それでもわかってほしい

おれのこころは

いま
わずかな痛みすら感じていないこと

生きてほしいのだ


おれのこころに
暖かく 優しい
痛みを与えたおまえに

もう

すっかり冷たくなってしまった身体を抱きしめる。



冷たい……どうしようもないほどに、



それでもまだ名残り惜しくて其の頬を撫でた。



血で貼り付いてしまった後れ毛を頬からとってやる。



白い  白い

その貌は



ほんのついさっきまでと同じように穏やかで。



ま る で

花 の よ う で 。






ま た

涙 が 溢 れ て き た 。






「………晴明………」



呼んでも答えの返ってこぬ名を呼ぶ。



「………晴明………」



それでも、呼べば笑い返してくるような気がして…



堅く瞳を閉じ眠るその頬にくちづける。



散 っ て し ま っ た 愛 し い 桜 に 。






「…………なあ晴明、おまえは…………」

博雅

桜は決して儚い花ではない


花が全て散り去っても
桜の命が尽きるわけではない

また新たな春には
つぎの花を咲かすのだ


強い
強い花だよ 桜は


みな
満ち足りて散ってゆくのだ

だから
桜の散る様はあんなに美しい


己が消え行く
その真際ですら笑っておるから……

「………おまえは
 最後まで
 笑っておるのだな…」


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